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I Love This Life
selected by 高橋宏文

高橋宏文
フリーライター、構成作家、クリエイティヴ・ディレクター。音楽関係を中心に「Esquire」「CDジャーナル」をはじめ、さまざまな雑誌・フリーペーパー・WEBでの執筆活動、FMラジオ番組の制作やインターネット放送の構成などを手がける。人生の師匠でもあるロバート・ハリス氏と番組で一緒に仕事をしていたことがきっかけとなり、2002年〜2003年にかけてJ-WAVEの番組レポーターとして世界28ヶ国を放浪。
今回僕が選んだ曲にはいずれも何かしらの痛みが伴っていると思います。それゆえに必ずといっていいほど、すべての曲にはどことなく切ない感覚が含まれています。日常生活においては楽しいことばかりでなく、ときにつらく苦しいことがあるのは誰でも当たり前のことだと思いますが、そんなときにこういった音楽を聴くことで、「自分と同じ気持ちを持った人がいるんだ」と思えることこそが大切な気がします。それはふたたび僕らが前向きに生きていこうとするときの後押しをしてくれるものだと僕は信じているし、これらの音楽が皆さんにとっても何かの支えとなることを願って。
1. ブルー・ナイル 「The Downtown Lights」
光と闇に包まれた夜の街で、愛する者への想いを歌う。その風景は浮遊感のあるサウンドと魂のこもった歌声とともに、あふれんばかりの優しさと思いやりをはらませてどこまでも高くのぼりつめていきます。僕がかつてポール・ブキャナンにインタビューしたときも、彼自身「歌詞とメロディーが最高にマッチした曲のひとつ」と評していました。僕が世界で1曲だけ挙げるとするならば、もしかしたらこの曲を選ぶかもしれません。
2. 坂本龍一 「Paradise Lost」
YMO散開後の1984年に発表した名盤に収録。当時、隆盛を極めていたデジタル・サウンドに包まれていながらも、その磨き抜かれた音色のセンスは現在でも色褪せていないことにあらためて驚かされます。同じフレーズがただ淡々と繰り返されていくシンプルな楽曲なのに、いつの間にかどこにもない至極の世界へ連れて行かれてしまうという、叙情的な逸品。教授の作品はどれも好きですが、なかでもとくに大好きな1曲です。
3. アラニス・モリセット 「Ironic」
激しさと静謐さが1曲のなかでこれほど見事なバランスで成り立っているというのは、ちょっとなかなかお目にかかれません。しかもこの曲は彼女のデビュー作に収録されていたものということで、「ジョニ・ミッチェル以来の才能」と評価されるのも何かわかるような気がします。ときに感情を爆発させるほどの躍動感の後に広がってゆく無我の境地。聴きこめば聴きこむほどにどんどん心地よくなってしまう音空間がそこにあります。
4. コールドプレイ 「Fix You」
この曲の後半からクライマックスにかけて繰り広げられるメロディーを初めて聴いたときの感動をどうやって文章で伝えたらいいのだろう。その圧倒的なドラマがもたらしてくれる高揚感の前にあってはもはや言葉なんていらないのかもしれません。人生の迷いも不安もすべて吸い込んだうえで、必要最小限の音だけで表現される至福の音。やっぱり人生って捨てたものじゃないと思わせてくれるようなこの曲と出逢えたことに感謝します。
5. 高野寛 「Planetarium Rain」
最近ではプロデューサーとしての活動も多く、さほど目立たない立ち位置にいる人ですが、誠実でロマンティックな歌をたくさん作ってきた、純粋な心を持ち続けるシンガー・ソングライターだと思います。この曲は、僕らが若い頃に持っていた感覚をふたたび蘇らせようと試みるかのように、どことなくノスタルジックに都会的なサウンドを心地よく響かせますが、聴き終えた後にまた新たな一日に臨む気持ちをあたえてくれます。
6. Jewel 「Break Me」
ジュエルがバラードを歌うと、何か特別な時間が流れるような気がします。この曲で表現されているのも、まさに恋人たちが体験するような濃密な歌世界なのですが、そこにはなぜか必ず孤独感や寂しさといった感覚が含まれています。それはおそらくジュエルが本能的に人間の本質を感じ取ったうえで歌わずにはいられないからこそ、自然と浮かび上がってくるものなのでしょう。それがあるから、聴く者も彼女の歌に信頼を寄せるのです。
7. クレイグ・アームストロング 「Balcony Scene (Romeo And Juliet)」
映画『ロミオ&ジュリエット』のテーマ曲としても知られているこの曲、まさに物語の運命をイメージさせるような美しくも切ないインストゥルメンタルになっています。ストリングスの使い手として、マドンナやマッシヴ・アタックなどとも共演している才人ですが、劇伴の役割であるはずのサウンドトラックで、これほどまでに多くの人々の心をとらえるというのは、いかに優れた音楽を作っているかを証明していると思います。
8. GRAPEVINE 「Our Song」
今、この日本において、切ない音楽の作り手としての第一人者といえば、間違いなく彼らでしょう。この曲がたまたまコンビニでかかっているのを初めて聴いたとき、そのあまりの切なさに胸が締めつけられそうになりながらも、僕にとって絶対に必要な音楽だと直感しました。重厚感のあるロックを常に展開している彼らですが、シングルになったこの曲をはじめ、瑞々しい感性で綴っていく歌の数々はどれも聴き応えがあります。
9. シガー・ロス 「Andvari」
荒涼としたアイスランドの大地が浮かんでくるような、ひんやりとした肌触りのサウンド。しかし、ただクールな音楽というわけでもなく、その歌はダイナミズムを伴って、美しくやさしく響き渡ります。多重録音を駆使して摩訶不思議なサウンドを構築していくために、ときにはドラマティックな展開が多い彼らの音楽にあって、この曲はシンプルで美しいメロディーを紡いでおり、人懐っこく親しみやすい歌心が感じ取れます。
10. Paula Cole 「Pearl」
かつてピーター・ガブリエルのツアーに参加していたことで知っている人も多いだろうシンガー・ソングライターですが、これまでに発表している3枚のアルバムではいずれもクオリティの高い音楽を披露しています。腕達者たちの演奏に支えられ、彼女の歌も伸びやかに弾んでいくのが印象的です。叙情的なメロディーのなかに見え隠れする、希望と不安の交差。それはおそらく人間が誰しも持っている普遍的な感覚のひとつなのでしょう。
