PR


雨のち晴れ・マイスタイル
selected by ウチタカヒデ

ウチタカヒデ
設計士の傍ら音楽ライター、音楽家としての顔を持つ。現在フリーマガジン『art yard』でコラムを連載中。企画、執筆書籍は2002年『SOFT ROCK ULTIMATE』、2006年『ポップ・ヴォーカル』。楽曲提供は2001年『TOKYO BOSSA NOVA』、2004年『found in fairground』。2006年6月28日にプロデュースしたコンピ『Easy Living vol.1』をリリースした。

単純な性格のせいか、気の利いた一曲で憂鬱な気分がふっ飛ぶことが多い。便利な性分が身を助ける好例といえるだろう。音楽による精神の浄化作用が医学的に立証されていたかは定かではないが、日頃からバイオリズムに合わせてプレイリストを作って聴いている方である。ここでは6畳10m²のリビングにいても、様々な情景を感じられる様なイマジネーションを刺激して気分を高められる10曲を選んでみた。ウエストコースのハイウェイから、遠い異国の地や時空を超える歴史の舞台へ。その想いは果てなく駆けめぐる。

1. ザ・ビーチ・ボーイズ 「Sail On, Sailor」
いつだって気分を高揚させてくれるのは、ご機嫌なリズムと美しいハーモニー。カール・ウィルソンのR&B趣味が色濃く出たこの曲は、雲間から現れる陽光のように僕を包んでくれる。やがて高鳴る気持ちと共に船出しそうだ。
2. リトル・フィート 「All That You Dream」
フィートの曲では珍しくストレートで爽やかなナンバーである。どうも個人的にはリーダーのローウェル・ジョージの方が好みのギタリストなんだが、ソングライターとしてはポール・バレアの曲に惹かれるのだ。ハイウェイを突っ走る様な開放感のあるこの曲では、オーリアンズを率いるジョン・ホールがギターで参加している。
3. マリア・マルダー 「Midnight at the Oasis」
彼女の声の官能的なビブラートは聴く者全てを虜にする。女性シンガーたるもの、真面目な意味でセクシャルな表現力を身に付けて欲しいのだ。それにつけてもマリアの歌声に付かず離れず寄り添うエイモス・ギャレットのギター・プレイはどうだ。国宝級で誰も真似出来ないとはこのこと。長く暑い夏の夜風の様に心地いい曲である。
4. マレン・モーテンセン 「エジプティシャン・ムーンライト」
北欧の美形女性ジャズ・シンガーといえば、ビル・エヴァンスと共演したモニカ・ゼタールンドがよく知られるが、最近では2003年にデビューしたデンマーク生まれのマレン・モーテンセンが個人的フェイヴァリット・シンガーだ。ソングライターとしてもユニークな存在でそちらの才能にも一目置きたい。特にこの曲での後半、激しいスキャットでフェイクするパートで気分が高まる。
5. 片寄明人 「VERANDA」
日本随一のソフトロック・マエストロである片寄明人のファースト・ソロアルバムから奥様のChocolatとのデュエット・ナンバー。ここでは先行のシングル・ヴァージョンとは異なり、プロデューサーのジョン・マッケンタイアによるモジュレーション処理が効いたトリートメントで特異なサウンドになっている。牧歌的なオリジナル・ヴァージョンから一転、まるで深海空間で漂っているようだ。
6. スクリッティ・ポリッティ 「Oh Patti (Don't Feel Sorry For Loverboy)」
80年代最先端とされたハイテク・ファンク・サウンドで一世を風靡したイメージが強い彼らだが、このバラードこそが最高傑作ではなかったかと今更ながら考える。音像が浮かび上がる立体的なミックスと、ひんやりと漂う空間系エコーを多用したサウンドにはため息を飲みばかりだ。客演したマイルス・デイヴィスのプレイも非常に効果的で欠かせないプレイとなっている。聴いた後の静かなるエモーション度も高いクラシック・ナンバーといえる。
7. ミニー・リパートン 「Here We Go」
“ミニー・リパートンは「Lovin' You」だけではない会”会長(勝手に作っている)としては、その活動の末期に発表したこの曲を捨て置くわけにはいかない。エイブラハム・ラボリエルとハーヴィ・メイソンの鉄壁なリズム隊によるハネるグルーヴとシルキーな天使の歌声にただ身を任せたい。長いブリッジの掛け合いで現れるピーボー・ブライソンは僕にとっては不要だ。
8. アル・グリーン 「Let's Stay Together」
以前『アリー my Love』という海外ドラマで、主人公の幻覚にアル・グリーンが現れ(本人も出演)、彼につられてこの曲を大声で歌い出した途端、現実に戻り大恥をかくという回があった。何とも痛快なシーンだったが、この曲が単なるラヴ・ソングとしてだけではなく、気分を高揚させる名曲と認識させる瞬間でもあった。共作者であるアル・ジャクソンによるドラミング、特にフロア・タムのバックビートがこの曲を更にスペシャルにしているのを見逃すな。
9. リトル・リバー・バンド 「Reminiscing」
この曲の世界観は「追憶の甘い日々」とつけられた邦題からもイメージされるのだが、記憶のページを綴るかの様に展開していく。すなわち“いい曲”というのは聴く者の人生において欠かすことの出来ない宝物なのだ。こんな曲を聴くたびにあの日を思い起こすのもいいものだ。決して風化することのない、作者冥利に尽きるであろう名曲である。
10. The Band 「THE Night They Drove Old Dixie Down」
まずこの歌詞で語られる南北戦争時代の歴史と政治的背景は置いておいて、逆境におかれた人々のドラマに深いカタルシスを感じられずにはいられない。ボレロ的なリズムを持つフックの歌詞が繰り返されるたびに、“敗れし者も誇り高くあれ”といった人生訓辞を受けている様でただただ感動するばかりだ。