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大人の衝動。終電で遊びに行く!
selected by 中林直樹

中林直樹
1970年生まれ。文筆、編集、選曲を手がける「TROVADOR(トロヴァドール)」代表。大学在学中から様々な媒体での執筆、編集作業に携わり、DJ&ライブイベントのオーガナイズや選曲も手がけてきた。また、ジャズの専門誌『ジャズ批評』で連載「新しい才能を求める旅」「ゴーゴーDVD」を執筆中。
http://www.trovador.jp

こんな平日に敢えて休みを取ってみた。「これは俺がやる仕事じゃない」「これは他人に任せた方が、会社のためになる」「これは俺が後でチェックする」など、目先の仕事を蹴散らし、週の半ばのある日、落とし穴に落ちるように、知らない日常に身を浸してみた。そう、実は計画的な所行。朝からワイドショーを主婦目線で見たり、昼間には少しソファでまどろんだり、近隣住人の夕方の足音を聞いたりして、大きく息を吸いつつ夜を待つ。ここは都内の某区。さて、今晩、東銀座の知り合いの店に飲みに行くことにしようか。もちろん一人で。終電で出かけて、気が向いた時間にタクシーで帰ってくる。そんな衝動的な気持ちと寄り添い、気分をさらに盛り上げる数々の音達を選んでみた。

1. リー・モーガン 「Yes I Can, No You Can't」
この曲を初めて聴いたのは多分もう15年以上前にもなるはずだ。冒頭のスネアのタイトな鳴り、そのあとに続く粋なベースライン。これほどまでにぷんぷんとただよう「不良臭」は、この曲以外に聴いたことはない。その後に続くモーガンが吹くテーマやソロも、いわずもがなの格好良さ。モーガンの音楽がここにすべて詰まっているといってよいだろう。いや、彼の人生そのものが詰め込まれているというべきか。そう思ってこのタイトルを見よ!
2. ボブ・ドロー 「I've Got Just About Everything」
飄々としたたたずまいと、調子の悪いフイゴのような声は、ジャズシーンでも異色の存在だ。もしジャズ版『異端の肖像』をしたためるなら、彼に1章を与えてやろう。今年で83歳になる、ピアニスト、ヴォーカリスト、コンポーザー。2000年に発売されたアルバム『トゥー・マッチ・コーヒーマン』から、自身の代表曲の再演。酩酊必至の夜に、彼の歌声はあまりにも似合うはずだ。
3. デヴィッド・ボウイ 「Golden Years」
いつ聴いても心踊るリズムと粋なコーラス。まぎれもないファンクミュージック。彼にはこの路線でもっとやってほしかった。「run for the shadow」のリフレインに、首筋をカミソリでそられたようにぞぞっとする。というわけで、闇に向かって疾走したい気分が高まって来た。
4. スペンサー・デイヴィス・グループ 「I'm A Man」
この曲もイントロ勝ち。きりりと引き締まりつつ、瞬発力がある。鍛え上げられた筋肉のような佳曲。作曲はストーンズとの仕事で名を馳せることになるジミー・ミラー。これまで世界で何人の人間がこの曲で、心と身体を動かされたのだろうか。
5. プリンス 「Starfish And Coffee」
無性にプリンスを聴きたくなるときがある。何故だ? きっと、心の中にある冷たい部分や戸惑いを、あの奇声が打ち破ってくれると感じているからに違いない。また、たまに非常にチャーミングなセンスを見せるところも良い。この曲もそう。それにしても我ながら無節操な選曲だと思う。
6. トーキング・ヘッズ 「Blind」
リズムの探求。このニューウエーブバンドが後年にテーマとしたのは、ソウルやラテンの鼓動を取り入れることだった。この曲はジェームス・ブラウンにも通じるファンクなのだが、やはりねじれている。ブラスのリフやパーカッションのビートと、自分の鼓動がシンクロし始める。
7. JAPAN 「The Art Of Parties」
トーキング・ヘッズとは、ねじれかたは違うものの、新しいリズムを探求したことでは同系列のアーティストだ。先日、彼らのビデオクリップやライブを収録したDVD『ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・ジャパン』を観たのだが、気持ち良いほど、気持ち悪かった。特にベースのミック・カーンがステージ上で見せる蟹のような横走りが。フレットレスベースを弾きながら(しかも難解なフレーズ)、うろうろする姿は、一度観たら脳裏に焼き付いてしまうほどだ。サビを口ずさみながら、出かける支度をする。
8. アンドリュー・ヒル 「Soul Special (First Version)」
難しい曲をさらりと書いてしまうヒルだが、この曲はいたって分かりやすい。タメを生かした粘り気のあるリズムが、聴くものの腰を否応なく揺さぶってくる。ここで選んだのは、LP発売時には収録されなかったファーストバージョンで、正規発売曲とはメンバーが異なる。ウディ・ショウ、ジミー・ポンダー、それにイドリス・ムハンマドというファンキーなメンバー。正規発表曲との聴き比べが面白い。同じメンバーでもこんなに解釈が違うのだ。
9. モーズ・アリソン 「Baby Please Don't Go」
永遠のワンパターン。彼が作る曲は、どれもがほとんど同じだ。でも、アルバムを何枚も揃えてしまうのは、彼の中に魅力的なスタイルがあるから。聴き手は「また同じだ」と言いながら、顔が緩んでしまう。同じスタイルを貫き通すことの難しさ(本人が意識しているかどうかは知らないが)。潔く、頑固な姿勢は、バーカウンターのいつもの席で、いつものグラスを傾けるようなイメージ。
10. Jack Nitzsche 「harry Flowers (Album Version)」
ミック・ジャガーが主演した映画『パフォーマンス』のサントラから。流麗なストリングスが舞う。深酔いで、混乱する頭の中を涼しい風が吹き抜けるような感覚だ。では気分を落ち着けて、出かけるとするか。でも、なんか面倒くさくなってきた…。明日も仕事だしな。