珠玉。王道。そんな形容がぴったりの素敵なポップアルバムだ。オリジナルアルバムとしては約1年9ヶ月ぶり。当代一のポップ職人の面目躍如といえる本作が、悲しみを乗り越えて制作されたことはインタビューに詳しい。ポジティブなメッセージに定評のある彼にして、これまで以上に真っ直ぐに胸を打つ言葉を紡いでいるのは、そんな心境の変化と成長があったからこそ。人懐っこい温かさと、凛とした力強さに満ちた作品だ。
そして、ここでもっと強調しておきたいのはサウンドクリエイターとしての才能のきらめき。本作の随所から、彼が聴き育った80'sのエッセンスが香り立ってくるのは、インタビューでも語っている通り。
たとえば「五つの文字」で、坂本龍一が80年代に愛用していたシンセの銘器“Profet5”の音色が。「“これ、教授ね”といいながら弾いてました」と語る笑顔は音楽少年のよう。「Dance with me」のゴージャスでグルービーなサウンドは「最近はああいう花をまいたような綺麗な曲って少ないじゃないですか」と、スウィング・アウト・シスターのイメージ。マイケル・マクドナルド時代のドゥービー・ブラザーズ風AORに目配りした「カイト」には、「いい具合のミクスチャーな感じを自分でも楽しみました」とスラップ(チョッパー)ベースを入れたり。「若い人たちで響かせ方が違って演歌の匂いがしない」という、ストリングスをフィーチャーした「Love was sleeping」の弦の響きは、ハリウッド名画のサントラばりの流麗さにため息が出そう。アフリカンサウンドに挑戦した「Circle of Rainbow」は、彼の意外な側面と思いきや「ピーター・ガブリエルも好きだったんですよ」。
全曲、優れたポップスの脈々たる流れから“美味しいところ”を咀嚼し、新たなチャレンジを交えながら、良質なポップサウンドを作り上げているのはお見事。横ノリのグルーブ主体で、あの人懐っこいメロディーを際立たせた“槇原敬之ワールド”は必聴!
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「悲しみなんて何の役にも立たないと思っていた。」 |
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