椎名林檎 インタビュー

●10曲目の「カリソメ乙女」は、曲のイメージに関して、どんなことを考えました?
椎名林檎:「この曲は、アンナちゃんの水揚げシーンに合わせて書いたものなんですけど、色っぽい場面だし、これは難しいと思ったんです。しかも、そのシーンっていうのは監督が一番始めにイメージを固められたものらしく、音楽がすごく大事だったみたいなんです。でも、歌が乗るのはどうかなと思ったし、それでいて、バンド・ネオンとバイオリンで引っ張る曲にしたいっていう音のイメージがあったので、インストでも、歌モノでも成立するように書き下ろしました」
●じゃあ、順番としてはインストゥルメンタルの“HITOKUCHIZAKA ver.”(シングルのc/wに収録)というのが最初にあって、その後、アルバムに収録されている歌モノの“TAMEIKESANNOH ver.”を作った、と。この2曲はタンゴにアレンジされていますが、タンゴが喚起する情熱的なイメージと色っぽい映像のリンクを考えて作ったんですか?
椎名林檎:「そうですね。劇中の水揚げシーンって、主人公の少女とご隠居っていう、すっごくいけない状況だと思うんですけど(笑)、私の中でバンドネオンの音色は、いけない雰囲気を体現してくれるっていう安直なイメージがあって。だから、こういうアレンジになっているんです」
●ただし、この歌詞に関しては、映画とは切り離された内容なんですよね?
椎名林檎:「はい。ジュディ・オングさんの“魅せられて”っていう曲があるじゃないですか? あの曲は、“エーゲ海のテーマ”っていうインストの原曲に歌を付けたものらしいんですけど、この曲のことを考えていた時にそのことを思い出したんです。つまり…歌っちゃえばいいのかなって。 かつてのジュディ・オングさんに思いを馳せつつ、ね(笑)。歌詞に関しては、水揚げの場面についてというよりは、映画における主人公の在り方なり、現代の女性にも求められる強靱さを詰め込みたくて、トラック制作とほとんど同時に、書きました」
●この曲は更にSOIL & "PIMP" SESSIONSと共演した“DEATH JAZZ ver.”(配信限定でリリース)があるわけですが、これは劇中で使われていませんよね。
椎名林檎:「この“DEATH JAZZ ver.”っていうのは映画『風の谷のナウシカ』における安田成美さんが歌う「風の谷のナウシカ」みたいな存在というか、安田成美さんの歌って、あの映画の劇中には出てこないんだけど、映画を象徴してるじゃないですか。この“DEATH JAZZ ver.”はそういう存在にしたかったんです」
●つまり、映画の外で鳴らされる、映画を象徴する楽曲だ、と。
椎名林檎:「そう、映画を観たいと思ってくださっている方がイメージしやすいように。SOILにお願いしたのは、輸入ものじゃなく、歌謡曲なんだけど、昭和歌謡のレプリカじゃないもの、コンテンポラリーな日本の音楽でありながら、技巧やセンスを余すところなく使っているものっていうサジ加減を分かってくださるから」
●11曲目の「花魁」は浮雲さんが過去に作った楽曲ですが、映画を観ていて、この曲の存在を思い出したわけですね。
椎名林檎:「そう。この曲は、主人公がいかにいい女かっていうダイジェストになっている場面に歌モノが欲しいという発注がまずあって、それについて考えていたんですけど、彼女の喜びっていうのは、実体のないものというか、別にそこで商売が上手く行っても彼女のホントの喜びではないということを漂わせたくて。じゃあ、この曲の歌詞は誰の視点からのメッセージなのか? って考えた時、彼女を賞賛している側の男性の視点がいいなと思ったし、軽やかなものがいいだろうということで、浮雲の曲を思い出して。この曲って、確か、2002年の作品で、もともと好きな曲だったんですけど、当初は彼らしいギター・ロック的でありながら、モータウン的なアレンジだったんですね。でも、さっきの理由から浮遊感のあるアレンジにして、使わせて頂こうということで、彼の許可を取ったんです。実際の作業は、リズム・トラックを打ち込んでおいて、そこに弦が欲しかったので、最初は他の曲の素材を切り張りしようかと思ったんですけど、ネコさんがやって下さることになり、お願いしました」
●最後の曲「この世の限り」は、映画のエンディングで使われていますね。
椎名林檎:「監督がご自分で“エンディングにすごくこだわってる”とおっしゃっていて。だから、私なりにエンディングを解釈して、男女がちゃんと共存しているもの、家族愛に近い感情を書いたんですけど、兄がいいだろうと思ったんです。あと、これは多分、いつの時代も言われていることなんでしょうけど、“最近の若者は〜”とか“この国の将来はどうなっていくのだろう〜”みたいなことってあるじゃないですか。こと、今は音楽業界はもちろん、世の中的にもヤバいと言われているわけですけど、そういう危機感にどう対処するか? 隣人と話し合うっていうテーマを据えたくて、大勢の方に参加して頂いた大編成で演奏しているんです」

